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私がトイレを詰まらせて学んだ教訓
それは、私が一人暮らしを始めて間もない、ある日曜日の朝のことでした。前日の夜、友人と深酒をし、少し体調が悪い中、トイレに駆け込みました。そして、いつもより多めのトイレットペーパーを使った後、何も考えずに、レバーをひねったのです。その瞬間、便器の中の水は、いつものように渦を巻いて流れ去るのではなく、不穏な音を立てながら、ゆっくりと、しかし確実に、その水位を上げてきたのです。まるで、ホラー映画のスローモーションのように、茶色く濁った水が、便器の縁へと、じわじわと迫ってくる。頭が真っ白になりました。「どうしよう、溢れる!」。私は、パニックになりながらも、近くにあったラバーカップを手に取り、無我夢中で、便器に押し付けました。しかし、素人の浅知恵。焦るばかりで、うまく真空状態を作れず、ただ汚い水を、周囲に撒き散らすだけでした。その時点で、私の部屋のトイレは、もはや機能的な空間ではなく、絶望と、かすかな悪臭が漂う、災害現場と化していました。もう、自力では無理だ。そう観念した私は、震える手で、スマートフォンの画面をなぞり、「トイレ 詰まり 修理 24時間」と、検索しました。電話口で、しどろもどろに状況を説明すると、「三十分ほどで伺います」という、神の声のような返事が。そして、約束通りに現れた作業員の方は、私の無残なトイレを一瞥すると、動じることなく、手際よく、業務用の強力なポンプで、作業を始めました。そして、わずか数分後、「ゴボゴボッ!」という、詰まりが解消された、生命の息吹のような音と共に、便器の水は、勢いよく吸い込まれていったのです。原因は、やはり、一度に大量に流した、トイレットペーパーでした。作業員の方から、節水トイレの特性と、正しいペーパーの使い方について、懇切丁寧なレクチャーを受けながら、私は、自分の無知と、日々の行いを、深く、深く反省しました。あの日の、便器の水位と共に、上昇していく絶望感。そして、救世主のように現れた作業員の方の後光。あの体験は、私に、当たり前の日常が、いかに脆く、そして尊いものであるかを、痛いほど教えてくれた、忘れられない教訓となっているのです。